ジャングルに湧く温泉の旅へヒッチハイクの旅!

「エルサルバドルの密林の奥深くに、川全体が温かい温泉になっていて、そのまま巨大な滝となっている場所があるらしい」

その場所の名は「エル・サルト・デ・マラカティウパン(El Salto de Malacatiupan)」。

日本人にとって「温泉」と「滝」という二つの言葉が合体したパワーワードを聞かされて、黙っているわけにはいかない。しかも、ただの温泉ではなく、豪快な滝壺がそのまま天然の温水プールになっているというのだ。

「これは行くしかない」

疲れを癒やす極上のヒーリングと、まだ見ぬ秘境への好奇心を胸に、僕はカメラと水着をバックパックに詰め込んで宿を出た。

爆音チキンバスで目指す、のどかな西部の街

マラカティウパンの温泉滝があるのは、エルサルバドル西部の「アティキサヤ(Atiquizaya)」という小さな町の郊外だ。

まずは拠点にしていたサンタアナの街から、中名物「チキンバス」に乗り込む。アメリカのスクールバスを派手にデコレーションしたその車内は、朝からラテンミュージック(レゲトン)が爆音で流れていた。

チキンバスの車内。鼓膜が破れるほどのレゲトンの音楽が車内に響き渡る

車窓から見えるのは、コーヒー農園や、のんびりと草を食べる牛たちの姿。都会のカオスから離れ、のどかな田園風景が広がるにつれて、僕の心も自然とリラックスしていった。

約1時間ほどの快適なドライブを経て、乗合バスはアティキサヤの小さな街の広場に到着した。ここからは、さらに郊外にある温泉の滝を目指さなければならない。

Googleマップを確認すると、目的地まではここから数キロ先の田舎道を上っていく必要があるようだ。ローカルバスのルートからは外れているため、地元の乗合荷台トラックを探すか、タクシーを使うのが一般的らしい。

「よし、久しぶりにヒッチハイクで行ってみよう!」

安全性が劇的に向上した今のエルサルバドルなら、田舎町のヒッチハイクはローカルな現地人と触れ合える絶好のチャンスだ。僕はバックパックを背負い直し、のびのびとした田舎道を歩き始めた。

荷台の上で風になる最高のヒッチハイク

日本でヒッチハイクというと少しハードルが高い印象があるかもしれないが、中米の田舎町では荷台付きのトラックに乗せてもらう「ヒッチハイク」は、地元の人々にとってもごく日常的な助け合いの風景だ。

親指を立てて歩き始めてから、わずか5分。

後ろから「ガタゴト……」とエンジン音を響かせてやってきた一台の古い白い荷台トラックが、僕の横でピタリと止まってくれた。

運転席から顔を出したのは、麦わら帽子をかぶった笑顔が可愛いおじいちゃんだった。

「おーいアミーゴ!どこまで行くんだい?」

「アミーゴ!マラカティウパンの温泉の滝に行きたいんだ。近くまで乗せていってくれないかな?」

僕がスペイン語で尋ねると、おじいちゃんは笑って「お安い御用さ!後ろの荷台に飛び乗りな!」とポンポンとトラックの荷台を叩いてくれた。

「どこから来たんだ?」と、信号待ちのたびに運転席の後ろの窓からおじさんが話しかけてくれる。

「日本からだよ!エルサルバドルの自然と温泉を楽しみに来たんだ!」と答えると、「日本から!よくこんな田舎まで来てくれたなあ。エルサルバドルは最高だろ?」と誇らしげに笑って言っていた。

15分ほど走ると、トラックは緑に囲まれた小さな分かれ道で止まった。

「アミーゴ、ここを少し下りていけばすぐに滝の音が聞こえてくるよ!楽しんでな!」

「本当にありがとう!おかげで最高のドライブだったよ!」

お礼を言い、荷台から軽やかに飛び降りた。おじいちゃんは手を振りながら、再びガタガタと音を立てて走り去っていった。エルサルバドルの人々の気さくさと親切さが、胸の奥をじんわりと温かくしてくれる。

目の前に現れた奇跡。35度の湯気が立ち上る「熱帯の天然温泉滝」

トラックを見送り、緑豊かな木々が立ち並ぶ小道を歩いていくと、すぐに「ゴーッ」という豪快な水音が聞こえてきた。さらに足を進めると、風に乗って微かにツンとした硫黄の香りが漂ってくる。

「本当だ……本当に温泉の匂いがする!」

小道を抜け、視界が一気に開けた瞬間、僕は思わず声を上げてその場に立ち尽くした。

目の前には、ジャングルの中に突如現れた、信じられないほど幻想的な光景が広がっていた。

幅数十メートル、落差約15メートルの切り立った岩から、大量の水が勢いよく叩き落ちている。そして何より素晴らしいのは、その滝全体から、真っ白な湯気がモクモクと立ち上っていた。

温泉の滝。

「これが……マラカティウパン……!」

「……うわ、本当に温かい!!」

水温はちょうど35度から38度くらい。絶妙で心地よい温度なのだ。

僕はすぐに服を脱ぎ捨て、水着一丁になってエメラルドグリーンの滝壺へと飛び込んだ。

「あたたたたかい……!!最高すぎる……!」

全身を包み込む温かい温水。日頃の長距離移動で凝り固まっていた肩や腰のコリが一気にほぐれていくのが分かった。

さらに滝のすぐ真下まで泳いでいくと、そこは天然の大豪快マッサージチェアだった。頭上から降り注ぐ温かい滝の圧力を全身で浴びると、思わず「はぁぁ……」と深いため息と笑顔がこぼれ落ちる。

地球の底から湧き出る地熱のエネルギーと、圧倒的な大自然のマイナスイオン。これほど贅沢な天然温泉が、この中米のジャングルの中にひっそりと存在していることに、驚いた。

湯煙の中で深まる絆。現地ファミリーと過ごした温かすぎる時間

滝壺でプカプカと浮かびながら時間を過ごしていると、賑やかな声が聞こえてきた。

見上げると、地元の家族連れや地元の若者たちが、手作りのピクニックセットやドリンクを持って遊びに来ていた。彼らは服のまま豪快に滝壺に飛び込んだり、温かい川の中に座り込んで楽しそうにおしゃべりをしている。

僕が一人で珍しそうに滝を眺めながらプカプカ浮いていると、岩場に座っていたファミリーのお父さんが、笑顔で手招きをしてくれた。

「おい、そこのアミーゴ!一人で泳いでないで、こっちに来て一緒に食べなよ!」

お言葉に甘えて岩場に登ると、親切なファミリーが僕を温かく輪の中に迎え入れてくれた。お母さんが保冷バッグから取り出して渡してくれたのは、焼きたて熱々の「ププサ(トウモロコシ生地にチーズや豆を詰めて焼いたエルサルバドルの国民食)」と、冷えたコカ・コーラだった

「どこから来たんだい?」

「日本からだよ。この温泉の滝が見たくて、ヒッチハイクで来たんだ」

そう答えると、家族全員がパッと顔を輝かせた。

「日本から!わざわざ僕たちの街の滝に来てくれたのか!嬉しいなあ!」

「ヒッチハイクかい? エルサルバドルの人はみんな親切だろ?」

言葉はつたないスペイン語と身振り手振りだったが、そんなものは一切関係なかった。お母さんは「もっと食べなさい!」と次々に食べ物を勧めてくれ、子供たちは「一緒に滝から飛び込もうぜ!」と僕の手を引いて滝の上へと連れて行ってくれた。

「せーの!」の合図で、子供たちと一緒に温かい滝壺へとダイブする。大きな水しぶきと湯気が上がり、水面に顔を出すと全員で大爆笑した。

凶悪ギャングのニュースや、かつての危険なイメージで語られがちだったエルサルバドル。しかし、いま目の前にあるのは、雄大な大自然の恵みを心から愛し、遠く離れた国からやってきた見知らぬ旅人を、まるで自分の家族のように温かく抱きしめてくれる、最高に優しい人々の日常だった。

すっかり身体も心も温まった夕暮れ時、僕はファミリーにお礼を告げ、名残惜しくもマラカティウパンの滝を後にした。

「また絶対に来いよ!アミーゴ!」 「気を付けて旅を続けるんだぞ!」

かつての危険な歴史や、街に残るヒリつくような緊張感もエルサルバドルのリアルだ。だが、それ以上にこの国を輝かせているのは、大地から湧き出る雄大なエネルギーと、そこに生きる人々のどこまでもまっすぐで温かい心だった。

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