取材:泉あき・dkr
撮影:dkr
アダルトの世界を支える作り手を訪ね、その仕事と素顔に迫る新連載「業界職人列伝」。
最初に登場するのは鞭をはじめ独創的なアダルトグッズを手がける快楽工房レジーナの大山静己さんだ。

今回はスペシャル企画として、好評連載「フェチ沼の旅」でおなじみの泉氏とフリーカメラマンとしてさまざまな業界に通じ、アダルト業界にも詳しいdkr氏が聞き手を務める。
自身も幅広い性的嗜好を持つdkr氏とフェチの世界を旅する泉氏。この二人に著者も同行し、工房を訪ねた。
形や素材への素朴な疑問から、実際に使う場面を思い浮かべてこその質問まで。
二人の異なる視点に応えるうち、大山さんの話は、開発の工夫から失敗談、業界への提言へと広がっていった。
約2時間にわたる取材を三つのテーマに分けてお届けする。
初回は大山さんが繰り返し語った「本質」について。道具の形をたどっていくとその先には必ず、使う人と使われる人がいた。
※対話は取材時の発言をもとに、テーマに沿って順序を整理し読みやすく編集しています。
発明は、目の前の疑問から
泉:私が気になることから聞いてもいいでしょうか。この透明なところはガラスですか? 何でできているんですか?
大山:透明なところはアクリル。これを作ったのはあるS女性から「尿道バイブを作ってほしい」と言われたのがきっかけなんです。

大山さんは、相談を受けて頭に浮かんだ形と既に作っていた道具とのつながりを説明していく。
そこで大事にしたのが既存品と同じものにはしないという姿勢だった。
大山:僕は基本的に人のものは作らないというのが主義なので。自分のオリジナリティを作りたいんです。
dkr:それって「ないから作る」なのか「ないものを作る」なのか。
大山:それは卵が先か、という問題もあるんですけど無からは絶対に生まれない。白紙からは絶対に生まれない。何かをやっているときに「あ、この形ならいけるんじゃないの」となって作るんです。
材料の話から発想の生まれ方へ。泉氏が目の前の品に抱いた疑問をdkr氏がものづくりの問いへと広げていく。
大山さんによれば、その原型にも使っているときに感じた小さな不便があった。
大山:ローターって手で持つと自分の指がかゆくなりますよね。振動しているところを持って使うのは自分が面倒くさくなる。それでスティック状に作ったんです。そこから「これはいろいろ使い道があるよね」となっていった。
突飛に見える形も始まりは具体的だ。持つ手に振動が伝わり続ける。
その不便をどうにかしたいという経験が次の道具の土台になっている。

一人で使うのと、相手に使うのは違う。
大山:僕も実際に使うので「こういうのがあったらいいよね」「このときにはこれが欲しいな」というのがあるんです。市販のものを手に入れて、自分で使って「これはすごい」と思っても、相手に使うには向かないことがある。
dkr:グッズに合わせて人間のほうが合わせにいかないと、そのグッズのよさが出ない感じがありますね。
大山:自分の体であるいは相手と使っているときにどうなのかを考えて作っているか?ということです。頭の中で「こういうのがあったらいいよね」と考えるだけでは同じようなものになる。
自分で使うなら自分の感覚に合わせて調節できる。相手に使う場合は反応を見ながら位置や角度、強さを変えていく。大山さんはその違いにこだわる。
dkr:動いている映像を見るだけでもうゾクゾクするものもありますよね。「これが使える」と思ったら。
大山:そうなんですよ。だけど実際に使ってみて初めてわかることがある。僕も失敗していますからね。
大山さんの厳しい言葉は自分の失敗にも向いている。想像したとおりの感覚になるとは限らない。その経験が使う場面を確かめる姿勢につながっているのだ。
透明なのも、持ち手の形にも理由がある
話は相手の様子が見えることの意味へと進んだ。大山さんが見せてくれたのは透明な部分を通して動きがわかる道具だ。
泉:見える。ちゃんとわかる。こんなふうに動くんですね。
大山:市販のものではこんなふうには見えないものもあるでしょう。僕なら「見たくないの?」と言いますね。実際に相手に使っているときどういう動きをしているのか。
dkr:見えないものは一人で使うにはいいかもしれないけれど、ということですね。
大山さんの説明では透明な素材や光る仕掛けは見た目を飾るだけのものではない。使う側が様子を見られることも、二人で道具を使う面白さに含まれている。
さらに、持ち手の形にも工夫があるという。
大山:中に入ったら曲がっている方向がわからないでしょう。だから持つところを三角にしているんです。
泉:全部このつるっとしている感じがかわいい。宝石みたい。
dkr:見ていると「こう使うんだ」「こうなるんだ」と想像できる美しさがあるんです。ご自身で試しているからなんだろうなと思っていたんですけど、そこに美術のセンスもあるんですね。
大山:僕はもともと美術系なんです。形が頭の中で描けたらあとは材料をどこから持ってきて、どう加工するか。材料さえ見つけたら形はなんとか頑張ります。磨くことも一応知っているので。
泉:私から見ると、家に置いてあってもおしゃれなものに見えるんですよ。海外のお土産みたいな。

同じ道具を前にしても目が向くところは少しずつ違う。泉氏は手触りを思わせる質感や、飾っておきたくなる造形に惹かれる。dkr氏は形から使う場面を想像する。その両方が、大山さんのものづくりを伝えてくれる。
モードの数より「今こうしたい」
コントローラーの実演でも大山さんの考え方は一貫していた。見せてもらったのは、ごくゆっくりした動きから強さを細かく変えられるものだ。

大山:人間の体ってアナログなんで。これぐらいゆっくりから動くんです。実際に相手に使うとこういうコントローラーが欲しくなる。
泉:本当だ。いいですね。
大山:よく「10種類の動き」とか言うでしょう?それを順番に送るだけでなく「1から10に飛ぶ」「別の動きに戻る」というふうにできたらいい。「今これがしたい」というのは頭の中にあるわけですから。
泉:順番に変えるんじゃなくて急に変えられるということですね。
選べる動きが多いことと、欲しい動きへすぐ移れることはそれぞれ別の使いやすさだ。大山さんが気にしているのは相手を見て思いついた操作を、その瞬間にできるかどうかなのである。
この考え方はペニバンの着脱にもつながっていた。
大山:今から使おうというときに「ちょっと待ってね」はあかんのです。だから、うちは付け外しができるようにしている。強さを変えるときも一瞬オフになるのが気になることがあるんです。
dkr:実際に試していないと、現場の感覚や時間の感覚がわからない。
大山:そういうことです。
装着に手間取る数秒。切り替えの途中で止まる一瞬。製品だけを見れば小さな違いでも人と人とのやり取りの中では意味を持つ。大山さんはその時間まで設計しようとしている。
「誰をどうしたい?」に答えられるか
取材中大山さんはある製品の担当者に投げかけたという問いを紹介した。
大山:「これ、誰が考えたん?」「これで誰をどうしたい?」という話じゃないですか。
泉:「誰をどうしたい」っていうことなんですね。
短い言葉だがそれまで見せてもらった工夫を思い返すと、問いの意味がはっきりしてくる。
持つ手が疲れないようにする。手元で向きをわかるようにする。相手の様子を見られるようにする。変えたいときに強さを変え道具の準備で流れを止めないようにする。
大山さんのいう「本質」は、そうした具体的な場面の中にあった。
泉氏が形に惹かれて尋ね、dkr氏が使う立場から掘り下げる。二人とのやり取りを通して見えてきたのは、独創的な道具の奥に積み重なった使い手への観察だった。
次回は、その工夫にたどり着くまでの発明と失敗について。「面白い」と言われても売れなかったもの、作って初めて欠点がわかったもの。
大山さんの試行錯誤から、大山さんの仕事を更に掘り下げていく。

心斎橋駅から徒歩数分。雑居ビルの一室にある工房には大山さんが手がけた数々のオリジナル道具が所狭しと並び販売されている。既製品では少し物足りず、もっと刺激的なものを探している方はぜひ一度訪ねてみて欲しい。
快楽工房レジーナ 住所:〒542-0086 大阪府大阪市中央区西心斎橋1丁目9-28 リーストラクチャー西心斎橋ウエスト213号 Googleマップ
電話:06-6245-7240
アクセス:大阪メトロ「心斎橋駅」から徒歩約1〜4分/「四ツ橋駅」から徒歩約2〜3分
X:@1lkD2e4rsddh0tr(快楽工房レジーナ)
※店舗情報は公開情報をもとに掲載しています。来店前に最新情報をご確認ください。


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