取材:泉あき・dkr
撮影:dkr
「誰をどうしたい?」という問いから道具の形を考える。
前回は、快楽工房レジーナ・大山静己さんの開発哲学を使い手への細やかな工夫から紹介した。

では、その工夫はどのように生まれてきたのか。
引き続き、好評連載「フェチ沼の旅」の泉氏と、フリーカメラマンで自身も幅広い性的嗜好を持つdkr氏が話を聞く。
今回、二人の前に次々と飛び出したのは思いつきが形になる瞬間と作ってみて初めてわかった失敗の数々だった。
「面白い」と感心されることと実際に買って使ってもらうこと。その間にはどんな違いがあるのだろうか。
※対話は取材時の発言をもとにテーマに沿って順序を整理し、読みやすく編集しています。
その注文、どうやって形にする?
工房の道具には使い手からの相談をきっかけに生まれたものがある。その一つとして、大山さんが話してくれたのが「勃起センサー」だった。
大山:あるS女性から「勃起センサーを作ってくれ」と言われたんです。自分が触ればわかるけどそれが周りにもわかるようにしたい、と。発想はわかるんですよ。なるほどな、わかった、頑張ってみるわと。実際に作りましたからね。
dkr:それはどういう形で表に出るようになるんですか?
大山:最初に考えるのはLEDが光るとかですよね。でもそれでは面白くない。一番簡単に思いついたのが、留守番電話の音声です。
dkr:音声が流れるということですか?
大山:犬や猫の声が流れたら、周りが「犬、おれへんやん」となるでしょう。女王様の声を録音することもできる。数秒間ですけどね。
泉:すごいアイデア商品。面白いですね。
着想だけを聞けば、どう作るのか見当もつかない。しかし、大山さんは、録音に使える小さな部品を探し、反応させる仕組みを考え、一つの道具へとまとめていった。
dkr:今だったらLEDで文字を出せるものもありますよね。
大山:その頃はありませんから。今ならお金を出せば作ってくれるものもあるかもしれない。でも、一個でいいわけじゃないですか。そうするとどうしたらいいかを考えるんです。
一個の注文のために大がかりな開発を頼むわけにはいかない。手に入る部品と自分の加工でどこまで実現できるか。その条件も含めて発明は始まる。

ところが、泉氏が面白がったこの一品に大山さんはあっさりと言葉を添えた。
大山:だけどそんなもん売れません。二人の世界ではすごく面白いんですけどね。
振動を足せばよくなると思った
「頭の中だけで考えてはダメ」と繰り返す大山さん。その言葉の背景には自分自身の失敗がある。
大山:失敗作もありますよ。一番簡単な話をしましょうか。刷毛にバイブがついたものがあるんです。それでひげをそるときに泡をつけるブラシに、穴を開けてバイブを入れたんですよ。
柔らかな毛先に振動が加われば触れた感覚も変わるのではないか。聞いている側にもその発想は想像できる。
大山:ところがダメ。毛が振動を吸収してしまう。持っている側は振動するけど刷毛の先は振動しないんです。
泉:確かに。なくなっちゃうんですね。
大山:頭の中では先まで振動がいくと思うじゃないですか。そういう失敗は僕もしたことがあるんです。
仕掛けが動くことと狙った場所に狙った感覚が届くことは別だった。完成させて初めてその違いがわかる。
もう一つ、大山さんが挙げたのは振動する部分を二つにした試作だ。
大山:二つあったら強力になると思うでしょう。頭の中で考えるとね。でも、二つの振動がそろわない。実際に使ってもらうと「集中できなくてイライラする」と言われたことがあったんです。
大山さんが語るのは試作時に得た反応だ。部品を増やせば狙ったよさが増すとは限らない。むしろ、期待とは違う感覚になることもある。
大山:そんな失敗はいっぱいあります。やってみるとわかるんです。
自分の失敗を隠さず、そのとき何を考えどこで思惑が外れたのかまで話してくれる。そこに完成品を見るだけではわからない仕事の過程がある。

雑誌には出た。でも、買われなかった
一方で意図したとおりに作れたとしても、それで成功とは限らない。
大山さんは、携帯電話を使って離れた場所から動かす道具も作ったという。東京と大阪のように距離があっても操作でき強弱も変えられるものだった。
大山:それのおかげで雑誌ではよく取り上げられました。でも売れなかった。一台だけ売れたかな。それはどこかの業者が買ったんです。
泉:面白いのとみんなが買うのはちょっと違うんですね。
大山:違う。頭の中で考えると映像としてはすごく面白いわけですよ。二人の世界では面白いかもしれない。でも実際に売れるかというと違う。そういう失敗はいっぱいあります。
珍しい機能には驚くし記事として紹介したくなる。しかし読んで面白いことと、自分で使いたくなることは同じではない。
大山さんの経験では感心されるものがそのまま売れ筋になるわけではなかった。
大山:こういうことをほぼ30年やっていますけど「おもろいやん」と言われても商売にはならないものがあるんです。

その言葉を聞くと工房に並ぶ品々の見え方も変わる。どれも広く売るために企画された製品というわけではない。ある相談への返事であり一度試してみたかった発想の形でもあるのだ。
必要なのは「たった一人」かもしれない
依頼の中には持ち運びができる組み立て式の道具もあった。小さなバッグに収まり持っていった先で組み立てられるようにする。そんな工夫を凝らし完成まで半年ほどかかったものもあるという。
実現できるか。何を使えばできるか。大山さんはその都度、材料や構造を考えてきた。
大山:「商売にならないシリーズ」はいっぱいあるんです。
dkr:それを必要としている、その一人だけのためのものですね。
大山:そうです。
泉:一般にはいらない。
dkr:思いついた人だけが使いたいグッズですよね。「こういうグッズがあります」と言われても欲しくならない人がいても自分が思いついて「作って」と言った人は使いたくなる。
大山:そういうことです。全員が同じものを持っていてもしょうがない。うちも大量販売にするつもりはないんです。
ここで、先ほどの「売れない」という話にもう一つの意味が加わる。
広く売れなかったものにも注文した人にとっての役割はある。用途を思いついた本人には必要で、それ以外の人には存在を知っても買う理由がない。それは相談から始まるものづくりならではのことだろう。
泉氏の「面白い」という反応と、dkr氏の「一人だけのため」という言葉。その両方を聞くことで発明の魅力と商売の難しさが見えてくる。
材料との出合いが次の形をつくる
泉:商売として最初にオリジナルで作ったものは何ですか?
大山:このスティックバイブです。それまでは、市販のものをいろいろ改造していました。小さなバイブが見つかったから作れたんです。
最初のオリジナルも作りたい気持ちだけで生まれたわけではなかった。形にできる部品が見つかり、それまでの経験と結びついた。
反対に、使っていた部品が手に入らなくなれば同じものを作り続けることは難しくなる。取材中にも大山さんは手持ちの電子部品がなくなれば製作できなくなるものや、以前のモーターが入手できず同じ強さを再現できなくなったものについて話していた。
工房の仕事は発想と材料、そして使う人との出合いによって成り立っている。

振動を加えても思ったようには伝わらない。機能を実現しても売れるとは限らない。それでも一人の相談に応えるため、また材料を探し、形にしてみる。
大山さんの失敗談はそうした仕事の積み重ねそのものだった。
次回は、作り続けてきた大山さんが、いま業界やメディアに伝えたいことを聞く。
「話を聞いてくれる人は、一人二人でもいい」。その言葉には、どんな思いがあるのだろうか。

心斎橋駅から徒歩数分。雑居ビルの一室にある工房には大山さんが手がけた数々のオリジナル道具が所狭しと並び販売されている。既製品では少し物足りず、もっと刺激的なものを探している方はぜひ一度訪ねてみて欲しい。
快楽工房レジーナ 住所:〒542-0086 大阪府大阪市中央区西心斎橋1丁目9-28 リーストラクチャー西心斎橋ウエスト213号 Googleマップ
電話:06-6245-7240
アクセス:大阪メトロ「心斎橋駅」から徒歩約1〜4分/「四ツ橋駅」から徒歩約2〜3分
X:@1lkD2e4rsddh0tr(快楽工房レジーナ)
※店舗情報は公開情報をもとに掲載しています。来店前に最新情報をご確認ください。


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