業界職人列伝-No.1- 第3回|快楽工房レジーナ・大山静己|「一人二人でもいい」大山さんが、伝え続ける理由

著者:NUKITIMES編集部
取材:泉あき・dkr
撮影:dkr

使う人を思い浮かべて形を考え、失敗を重ねながら一人の注文にも応える。
これまでの2回では、快楽工房レジーナ・大山静己さんのものづくりを紹介してきた。

最終回はその大山さんが、業界やメディアに伝えたいことを聞く。

好評連載「フェチ沼の旅」の泉氏と、フリーカメラマンのdkr氏。二人との会話は、グッズの買い方から使い手の工夫、そして性をどう伝えるかという話へと広がった。

メーカーにも使う側にも書く側にも大山さんの言葉は率直だ。その厳しさの先にあるのは、どんな体験を届けたいという思いなのだろうか。

取材中、過去の掲載資料を手に笑顔を見せる大山静己さん。 dkr氏撮影

※対話は取材時の発言をもとにテーマに沿って順序を整理し、読みやすく編集しています。

目次

  1. 買いやすくなって、変わったこと
  2. 形を整えたその先に何がある?
  3. また会いたいと思われる人
  4. 書く側にも「本質」を求めたい
  5. 話を聞く、一人か二人のために

買いやすくなって、変わったこと

話のきっかけは、dkr氏が口にした、グッズを取り巻く環境の変化だった。

dkr:グッズの種類が増えてお店やネットでも買いやすくなったことでみんな「こんなものか」となっているところもあると思うんです。

大山:僕らの年代は逆ですからね。街道沿いの暗いところに怪しげなお店があったりして。値段もわからない、何もわからない。言われた値段で買うしかない、というような世代です。最初に買ったローターは確か6,000円か7,000円ぐらいしました。

dkr:僕のときもまだそんな感じだったので。あるものを使って工夫したり持っているものを組み合わせたり頭の中でいろいろ考えていく。その作業がありましたね。

大山:そういうことがよかったわけやね。

dkr:そこを追求することが少なくなってきているのかなという気はします。

買った道具をどう使えばもっと楽しめるか。簡単に次のものへ移れなかった時代には手元にあるものと付き合う時間があったという。

もちろん、手に入りやすくなったこと自体は多くの人がグッズに触れるきっかけにもなる。ただ、選べるものが増えることと自分の好みがわかることは必ずしも同じではない。

話が下着にまで広がった場面で、泉氏も買い物の感覚について言葉を挟んだ。

泉:昔と違って、一個のものを大事にしなくても値段が安くなって。買ってダメでも、捨てればいいか、となるところはありますね。

大山:自分の好みというものがだんだんなくなってきているんだと思うんです。

何を買ったかだけでなくどう楽しんだか。大山さんの話を聞いていると製品の向こうにある、その人自身の好みへと問いが向かっていく。

工房に並ぶさまざまな道具。使う人に合わせた工夫が重ねられている。 dkr氏撮影

形を整えたその先に何がある?

大山さんの関心はグッズだけには収まらない。鞭や緊縛についても見た目や形式が注目される一方で、相手とのやり取りが置き去りになっていないかと問いかける。

大山:最初に何を目的に始めたのか、ということです。それがいつの間にか本質から離れていっているように思うんです。鞭も同じですよね。

dkr:僕が昔、縄を教わっていた人からは縛らせてくれるだけでありがたいことだし、その分お礼を込めなければいけないと教わったんです。だから今のファッション的な感覚には、あまりピンとこない部分があります。

大山:昔は「縛ってから何をするの?」ということだったんです。

何を美しいと感じ、何を楽しみにするかは人によって違う。その中で大山さんとdkr氏が話していたのは相手との関わりを出発点にする感覚だった。

技術を身につけることや、形を整えること。その先で、相手にどう感じてほしいのか。第1回で登場した「誰をどうしたい?」という問いがここでも重なる。

大山さんは道具があれば体験が完成するとは考えていない。使い手がどう扱うかによってその意味は変わってくる。

大山さんが手がけた道具の一つ。手元にある素材から独自の形が生まれる。 dkr氏撮影

また会いたいと思われる人

顧客との付き合いについて尋ねると、大山さんは道具を購入する女王様たちの仕事にも話を広げた。

大山:彼女たちはリピーターが来なかったら仕事にならない。そのためにどうしたらいいか、このとき相手はどう思っているのか、という話をするんです。わかってくれる人はわかってくれる。

dkr:実際にわかっている人が作っているものは一度その違いを知るとほかには戻れなくなると思います。

大山:同じお店に10人いるとして、みんな同じものを持っていてもその人の売りにはならないでしょう。「これは私に任せなさい」というものがある。お客さんも道具や衣装をよく見ていますから。

ただし、珍しい道具を持っていればそれでよいわけでもない。大山さんが続けて話したのは、長く顧客が離れない人の接し方についてだった。

大山:顔やスタイルがよければ一度は来てくれるかもしれない。でも、扱いがいい、このときにこうしてくれる、ということがわかるとまた行こうとなる。入ってきたときから最後に帰るところまで、相手への接し方が上手な人がいるんです。

ここでも大山さんは一つの刺激や一つの機能だけを見ていない。迎えるところから送り出すところまでの体験があってその中で道具が使われる。

だから、使い手の得意なことや実現したいことを聞く意味がある。同じものを渡して終わるのではなく、その人の仕事の中でどう役立つかまで考えているのだ。

大山さんが自作した道具とコントローラー。使い方まで含めて考えられている。 dkr氏撮影

書く側にも「本質」を求めたい

取材中、大山さんは春画の図録にも目を向けた。そこで語ったのは題材の大胆さだけではない。人物の線や構図、衣服の模様まで細かく描かれていることだった。

大山:ちゃんと描いているものはこういう模様まで全部描いているんですよ。手を抜いていない。僕も美術系なのでわかるんですけど、この女性のラインや構図は簡単には描けないです。

造形を学んだ大山さんらしい見方だ。性を扱うものだからこそ、その表現を細部まで見る。そしてそのまなざしは文章にも向けられる。

大山:性的なことを書くならもう少し本質をついた文章を書いてほしいんですよ。読んでいて、薄っぺらいと思うことがある。メーカーさんも、AVももう少し本質を出してほしいんです。

私たちにとっても、受け流せない言葉だった。

新しい、珍しい、強い。そのような言葉で製品を紹介することはできる。しかし、それを誰がどんな思いで作り、どんな場面で必要としているのか。そこまで聞かなければこぼれてしまう話がある。

今回も、泉氏の素朴な疑問だけでは出なかった話があり、dkr氏の経験を踏まえた問いだけでは見えなかった魅力があった。異なる視点から尋ねることで一つの製品の説明が、作り手の考え方へとつながっていった。

過去の掲載記事を見せながら、当時を振り返る大山さん。 dkr氏撮影

話を聞く、一人か二人のために

一人の相談に応え、大量販売を目指すわけでもない。その大山さんがメディアの取材を受け、イベントにも出る。dkr氏は取材前に感じていた疑問を口にした。

dkr:お話を伺うまでは一点ものや注文に応える仕事と、メディアに出たりイベントに行ったりすることは、相反しないのかなと思っていたんです。でも、お話を聞くとそれも本質を広げることなのかなと。

大山:話をして、聞いてくれる人なんて一人二人ですよ、その場で。だけど、それでもいいんです。それでもいい。

大勢に同じものを売ることだけが人前へ出る理由ではない。説明を聞き自分が求めていることと結びつけてくれる人がいる。その人に会えることが大山さんにとって意味を持っている。

取材の終盤、実物を手に取り動く様子を見てきた泉氏も、その時間を振り返った。

泉:すごく楽しかったです。実際に手に取って動くところも見て。またお話を聞きに来たくなりますね。

大山:わからないことがあったらいつでも連絡してください。うちは、物を触ってもらわないとわかってもらえないんです。だから、ああやってイベントにも行くんです。

写真を眺めるだけでは持った感覚はわからない。説明を読むだけではなぜその形なのかまでは伝わらないこともある。
触れて、尋ねて、ようやくわかるものがある。

実際に手に取って動きを確かめる道具。触れて初めてわかる感覚がある。 dkr氏撮影

泉氏とdkr氏、二人の問いを通じて見えてきた大山さんの仕事もまさにそうしたものだった。

誰かが「こんなことをしたい」と話す。その話を聞いて形を考える。できあがったものを前にまた別の誰かと話が始まる。

「一人二人でもいい」という言葉は、そんな仕事を続けてきた大山さんの、実感のこもった言葉として残った。

取材を終えて

泉あき氏

お会いするのは初めてだったのですが、とても優しい男性で安心しました。
アダルトグッズの黎明期からグッズ制作をしていて、活動歴も長い。

お話を聞いていると、広く流通しているアダルトグッズはオナニー時の使用に特化しているものが多い、とおっしゃっていました。たしかに!!

一般に流通しているものはオナニーのときに使うものが多い中で、プレイなどパートナーと一緒に使えるグッズを作っているのが印象的でした。
自分自身でも使ってみて、グッズの使いやすさを判断し、改良を重ねる。
ユーザーさんに寄り添ったものづくりをしているなあ、と関心しました。

レジーナさんのつくるアダルトグッズは、ガラス工芸のようなおしゃれな見た目で、部屋に置いておいてもアダルトグッズとはわかりません。
雑誌のインタビュー記事なども見せていただきました。「なにわのエロエジソン」というキャッチコピーがあり、まさにその名の通りです。

今回の取材ではお話を伺いきれませんでした。
今度なんばへ出かける際は、ふらっとレジーナさんに会いに行きたいです。

dkr氏

大山さんは技術もあるし、商売もしている。
だけど本質的には好奇心旺盛で想像力豊かなただホンモノを求めるスケベだった。
そんなスケベが浮かんでは消えない妄想を叶えるために技術や知識を得て、そんな大山さんの言葉や技術に人が集まるんだろう。
商品があれだけ魅力的なのは大山さん自身に魅力があるからで、予定の取材時間を越えてもまだまだ聞きたい話がたくさんあったし、それにお付き合いいただいた大山さんには物凄く感謝しています。
本文から溢れた話もずっと魅力的な話が続いて完全な虜になると同時にまだまだ頑張らないとと思いました。
大山さんにはまだまだエロジジイとして頑張って貰いたいし、年をとっていく僕も負けないくらいのエロジジイになりたいと新しい夢ができました。


雑居ビルの一室にある工房には大山さんが手がけた数々のオリジナル道具が所狭しと並び販売されている。

既製品では少し物足りず、もっと刺激的なものを探している方はぜひ一度訪ねてみて欲しい。

快楽工房レジーナ

住所:大阪府大阪市中央区西心斎橋1丁目9-28 リーストラクチャー西心斎橋ウエスト213号(Googleマップ)
電話番号:06-6245-7240
公式X:@1lkD2e4rsddh0tr

※営業日時などの最新情報は、来店前に公式Xでご確認ください。

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