連載『人の性癖を笑うな』記念すべき第1回のテーマは「たてセタ」。
お相手は、かつて名前のなかったその欲望に「たてセタ」という概念を与えた創造主──漫画家の刻田門大先生だ。
「ニットという布が、いかにして肌の気配を侵食するのか」
ただのフェチ語りかと思いきや、目の前で展開されたのはあまりにもストイックな「構造美学」だった。なぜ僕らはこの服に惹かれるのか? 創造主の頭の中を覗き込む、知的で愛おしい“本気の無駄話”をお届けする。
「それ、何がいいの?」
そう尋ねてくる無粋な連中に何度、苦笑いで返してきたことか。
説明したところで伝わらないと分かっているし、そもそも好きなものは好きなのだけどそれじゃダメなのかな。迷惑かけてもないのに鼻で笑われる意味もわからない。
だけどガチ勢もニワカ勢も、誰かが「大好き」を語り合うあの熱量が僕は好きだ。
鉄道に大して興味がなくてもタモリ倶楽部の鉄道回で達人たちが繰り広げる「意味不明な熱量」に引き込まれている時のような、あの何を言っているのか分からないけれど魂が削られていることだけは伝わる熱量。
あの感じをフェチや性癖の分野で自分なりに掘っていけるだけの年齢や経験や言葉を、僕はある程度身につけてきたつもりだ。
もちろんまだまだ学ばないといけないこともあるし、諸先輩方を越えるほどではないが、自分自身を楽しませてあげることくらいはできる。
ストイックなガチ勢の探究心も、快楽優先のパーティー勢の直感も、上澄みを掬うニワカの純粋さもみんな違ってみんな良い。
完全に一致することなどまずない各々の性癖や趣向だから。
お互いはお互いだと認め合いながらもそこにシンパシーを感じたり、興味本位で覗き込んだり、あるいは自分の欲望を照らし合わせるための鏡にしたり。
だから僕はそんな人々の頭の中身をあえて少しだけ覗いてみることにした。
哲学的な考察も、ストイックな探究心も、そして最高に下世話な話も。すべてひっくるめて、「その人がなぜそこに惹かれるのか」という熱量をとことん面白がってみたい。
人にはなかなか言えない、けれど最高に愛おしい「壮大な無駄話」
それくらいでいいんじゃないかな。

今回のゲストは、漫画家・刻田門大先生。
今やネットのエロ、フェチ界隈で完全に市民権を得ている「たてセタ」という言葉。その言葉を生み、ただの縦リブセーターをあそこまで凶悪なフェチアイテムに昇華させたいわば“たてセタの創造主”である。
僕自身、彼の洗脳から『たてセタという病』なんていう写真集シリーズを撮り続けちょっとした代表作になっている重度の患者なわけで。この言葉を生み出した創造主の頭の中を、どうしても一度覗いてみたかったのだ。
ご本人に「たてセタの何がそんなにイイんですか?」と直球を投げてみたら、
「リブの編み目が、肉体の等高線をどう歪ませるか」
「ニットという布が、いかにして肌の気配を侵食するのか」
──ちょっと待って、めっちゃ真面目じゃん。
ただのフェチ語りかと思いきや、布と肉体の境界線を解き明かす、ゴリゴリの「構造学」や思想が展開されていく。その視点がもうストイックすぎて、対談中、僕は何度も笑ってしまった。自分の生み出した概念に対して、いくらなんでも真剣すぎる(最高だ)。
ぶっちゃけ、たてセタでムラムラしてる人なのかな?ってくらいになるのは今やたてセタ活動以外にも学校の先生なんかやっているからなのか?
人が自分の大好きなフェチを語る時の熱量ってやっぱりたまらなく面白い。刻田門大というフィルターを通す僕らの愛おしい無駄話。
名前のない欲望に「たてセタ」という輪郭を与えた日

なんかいまさら根本的な話なんですけど、「たてセタ」って先生の中で「ここからここまで」みたいな定義はあるんですか?

基本的には広くOKにしてます。例えばアランセーターみたいな編み込みのやつだと「ちょっと違うかな?」ってところはあるんですけど、それでもOKにしてるとこはありますね。要は情報量を多くしたいので。当然、作画コスト的には大変なんですけど。

厳格化しすぎてもつまんなくなるだけですからね。

ノースリーブはどうなの?って声もあるけど別にいいし、いわゆる「童貞を殺すセーター」みたいなのであったり、肩だけ開いてて袖がついてるやつとか、いろんなパターンがあるじゃないですか。あの辺も含めて別にいいんじゃないかなって。

ルールを厳格化しすぎると「警察」が生まれますからね(笑)。グラビアの子とかが「たてセタでーす」ってアップしてくれた時に、「これはたてセタじゃありません!」みたいな指摘が入っても、誰も得しない結果になりますし。

そうなんですよ。そこが嫌で。逆に言うと、それくらい定着して認知されれば警察も出てくるところではあるんですけどね。ノリとしては多分「ツインテール」とあんま変わんないと思うんですよ。

ツインテール?

ツインテも、ゆるいものもあればサイドテールっぽいのもあるじゃないですか。それぞれ呼称は違いますけど、大体の人はふんわり「ツインテール」として認識してる。そのくらいの塩梅がいいんです。

あー、なるほど。それこそ一般の人に「たてセタって何?」って聞かれたらどう答えます?

まあでも、あれですよ。「リブ編みになってるセーター」です。


基本的にはもうそれだけ?

生地の厚い薄いはあんまり気にしてないです。あ、ボーダーでないことですね(笑)。ボーダーは昔から名前がついてるから認知されてる率が高いんですけど、縦の「リブニット」っていうものを認識してる人は当時は少なかった。

そもそも、なんでこの言葉を作ろうと思ったんですか?男性で「リブ」って単語に馴染みがある人も当時多くないでしょうし。

自分が適当にイラスト描いてたら、その傾向が多かったから「多分好きなんだな」って気づいたのが大きくて。じゃあ呼称はなんだろうと調べた時に、分かりやすいものがなかったんですよ。「リブニット」とか、ただの商品説明じゃないですか。

確かに。

で、呼称が決まってないものって、世の中に認知されないんですよ。人間はものの名前がないと基本的に認知できない生き物だと思うので。名前がないと「こういうやつ」っていうのが共有できないじゃないですか。

ただの「こういう系」が「このジャンル」になるんですね。

だから、名前っていうのは共有するために一番最初に必要なところで。別に「縦セーター」っていう呼称でも良かったんですけど、短くした理由は、単純にその頃って四文字略しが多かったんですよね。

『ラブひな』的な?(笑)

そうそう(笑)。それで分かりやすい呼称で、絵と名前が一致できるようなものないかなって思いついて。

最初から「たてセタ」だったんですか?

いや、最初は「一人セーター祭り」とか言って、ひたすら単体で描いてたんですよ。その頃はまだ「たて先生」とか言ってて、たてセタにしてないですね。(過去のデータを見ながら)……あ、2009年か。11月くらいに同人誌作るって話になって、そのタイミングで正式に名前を決めたような気がします。17年前か。


そこからの広がり方が凄かったですよね。Twitterとかでも。

当時は今ほど検索が厳しくなかったんで、サードパーティーのクライアントで検索かけて全部出るじゃないですか。仕事の合間とかに検索かけて、30〜40個溜まってるのを「こっからここまで」って一気に全部リツイートしてたんですよ。

まさにその「たてセタ爆弾」で惹かれていったし、僕も刻田先生を「たてセタの人だ!」って認識しましたもんね(笑)そして僕も三次だけをさらに爆弾にしてったりしてました。

1時間くらいまとめてリツイートしてたら、俺のTwitterのフォロワーがガッと増えるんですよ(笑)。

(笑)

それで認知されることが結構多くて。気がついたらニコニコ大百科とかpixivの大百科系とかに書かれてたり、ジャンルとして定着していって。「認知されるから名前がついて、名前がついたから使われる」っていうサイクルができたんです。

いろんなタイミングが噛み合ったんですね。でも実際、もの自体はそれまでも存在していたわけじゃないですか。ただ、視点が変わったというか。

そうですね。呼称をつけることで見方が変わる。それまでだったらゼロベースだったものが、例えばただのTシャツも「ピチT」って名前がついてることによって、初めから印象が変わるじゃないですか。

「俺こっちの方が好きだね」って選べるようになると。

ええ。それは本当にものづくりというか、「なんでそうなるのか」という部分を考えながらやってます。
胸の谷間より「等高線」。強制的にラインを生み出す構造美

僕も先生に洗脳されて(笑)、そこから自分でも掘り下げていったんですけど。僕は「三次(リアル)のたてセタが足りない!」と思って、趣味でグラビアを撮ってアップし続けてたら、声がかかって写真集(『たてセタという病』シリーズ)としてリリースされることになったんです。


おお、なるほど。

実際に撮ってみて思ったのは、圧倒的に制作のハードルが低いんですよね。モデルさんも別にヌードになるわけじゃないからOKしてくれやすいし。

露出が多いのは、極論、局部だけ隠れればいいわけですからいくらでも作れると思うんですよ。でも、「隠れてるけどグッと来る」っていうのが重要で。

そう、たてセタって「隠していく行為」じゃないですか。

そうですね、ほぼ見えないです。

視点が変わるだけで、普通のファッションが急にエロに変わる。それこそ、たてセタに興味を持ち出したら、冬場の街中がすべてエロ本に見えてくるんですよ(笑)。

(笑)。でも本当に見え方が全部変わりますからね。どういうところをエロいと思うか、どう認知するかで世界が変わる。

ぶっちゃけ、先生は今でもまだムラッときます?

来ますよ(笑)。そういうところはやっぱり常に探していますね。

それは大事ですよね。僕は最近どんどん肉肉しいのが良くなってって、巨乳モデルさんとかより大柄マダムとかのほうがグッとくるようになってるんですけど、先生の中で「理想のたてセタ」ってあります?

ノーマルなのはずっとやってますけど、最近はジャンルやバリエーションが増えてきて楽しいですよね。コスプレイヤーの人とか、普段着がたてセタになってる人も多いですし。

分かります。僕は企業ホームページの撮影とかに行くんですけど、女性社員の方がジャケットの下にたてセタを着てたりするんですよ。ポーズのバリエーションの中で、あとあと見るとこれって企業ホームページに向いてるのかな?自分用みたいな写真だなってなってる時があります(笑)。


そこ重要ですからね(笑)。わざわざリブがついているやつを選ぶっていうことは、リブが故のストライプ効果が、ちゃんと「武器」として認知されてるってことでもありますから。

逆に、ちょっとオーバーサイズで、体にフィットしてない「ダボついたたてセタ」ってあるじゃないですか。あの辺に対してはどう捉えてるんですか?

あー、あれはどっちかっていうと「キャラ付け」の感じがしますよね。たとえば「できる女感」を出すのに、ダボッとしたのは基本着ないんですよ。

なるほど。

逆に地味系とかオタ系を狙う時に、ダボッとしたセーターを着て眼鏡をかける、みたいな定番のポジション。だから、フィット感のないものは完全にキャラクター付けだなって。

あー、それは深いな……!最近だと、テレビでも芸人さんとかが「ニットでこう、ビタッとしたやつ!」って言ってたりするじゃないですか。「たてセタ」って言葉は使わなくても、気づいた人が主張し始めてる。

一般化してますよね。二次元の絵で定番化したものが三次にフィードバックされて、それをエロいと認知する人がいるから「じゃあ着ようか」ってなる。女性側としても、露出するより難易度が低いからやりやすいというか。

やっぱ一番はSNSの影響ですかね。

SNSはめちゃくちゃデカいと思います。会社の広報とかで表に出る人が、いかにもな衣装は着られないけど見栄えを良くしたい、俗人性を出したいって時に、そこまであざとくないのがこういう感じ。ちゃんと普通に売ってるものを着てるだけです、と言い訳もできますから(笑)。

SNSの影響といえば、僕、以前Tumblrで自分の好きなものをひたすら詰め込んで趣味も資料もまとめてたら、ある日突然「肌色率が高い」って判定されてアカウント停止を食らったんですよ。

ああ、Tumblrあるあるですね(笑)。僕もTumblrは今でもガッツリやってますけど、あの機械的な判定は本当にシビアですよ。

それなんですよ。たてセタってこっちからしたらどう見てもエロい目的で集めてるのに、画像認識のアルゴリズムから見ると「ただのセーターを着た人」っていう、一見正常なファッション画像として扱われてない。あの「判定の曖昧さ」こそが、たてセタの強みですよね。

本当にそう。AIには「セーター」としか認識できないけど、人間が見れば「これは確実に狙ったラインだ」ってわかる。その、システムをスリ抜けてしまうくらいのギリギリの線を攻めている感じが、まさにたてセタの醍醐味というか。

まさにその「システムに正常として扱われてしまうエロ」っていうのが、たてセタという概念の面白さですよね。どれだけ僕らが欲望を詰め込んでも、世間には「冬の日常」として溶け込んでいくっていう。

そう。だからこそ、みんな安心してTumblrに画像を溜め込めるし、日常の中でこっそりニヤニヤできる。この認知のズレこそが、たてセタを特別な文化にしている一番の理由かもしれませんね。

そこら辺が一般的なエロとは一枚違う。それをただ平和に楽しめるエロと思う人もいればコソコソしてる隠れたエロでそこに興奮してる人は少なからずいると思うんですよね。
なんでもない顔しておっぱい強調してるじゃん!みたいな。

確かにそうですね。

僕、自分が一番病気だなと思ったのは、冬場にマッチョの男がたてセタ着てるのを見た時とか、店舗のマネキンを見た時にもちょっとグッときちゃったんですよ。(笑)

いや、でもそれくらい中身のラインが分かりやすくなる服なんですよ。単色の服って、シワがあんまりつかないで密着してると、ぴったりつけばつくほどもっさりしちゃう。

だから普通の服だと、目で追うのが難しい。

そう。だけど、リブが入っているものっていうのは、基本的に「強制的にもうライン(等高線)がつく」んです。そこがやっぱりデカい。胸がデカいか小さいかはどうでもいい話で。ラインが曲がることで中身がどうなっているかが自動的に分かる、その形状がポイントなんです。
(後編につづく)


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