著者:NUKITIMES編集部
取材:泉あき・dkr
画像:革工房あやめ公式SNS掲載画像
書道や華道、演劇の造形。前回はさまざまな経験が重なって生まれたあやめ氏のものづくりの原点を紹介した。
今回は、実際の製品と注文への向き合い方について話を聞く。引き続き、好評連載「フェチ沼の旅」の泉氏とフリーカメラマンのdkr氏が聞き手を務めた。
かわいらしいアクセサリーから使う人に合わせて調整する鞭まで。幅広く手がけるあやめ氏は、自分の仕事について「うちにはカラーがない」と話す。しかし二人の聞き手には、その姿勢こそが一つの個性に見えていた。

※対話は取材時の発言をもとに、テーマに沿って順序を整理し読みやすく編集しています。
目次
初心者向けを狙ったわけではない
泉氏が注目したのはイベントなどで販売しているアクセサリーだった。用途を限定せず普段の装いにも取り入れられそうな品がある。そこにはこれから革やフェティッシュの世界に触れる人への意識もあるのではないか。
泉:そういう界隈に興味がない人でもなんか可愛いと思って使えるじゃないですか。
手首の手錠みたいなのも片方ずつしたら普通に可愛かったりとか、プレー目的じゃなくても使えるものが多いなーっていう印象を結構受けたので。
ところがあやめ氏の答えは泉氏の予想とは少し違っていた。
あやめ氏:そこを意識しては実は作ってないんですよ。
拘束具をとりあえず小さくしたら可愛くなるよねっていう、ただこれだけです。
ある層に向けて売ろうと考えたのではなく、作っていたものを小さくしてみたら別の魅力が生まれた。そこからこれも小さくできるのではないかと品数が広がっていったという。
あやめ氏:好きなものを作っていこうとか、あとは好きなものだけだったら無理なので相手が求めるものに応えようというふうな観点の方がすごい強いです。
誰に売るかを先に決めるより自分が作りたいものと、相手から求められるものを形にする。その結果、泉氏のように日常でも使えるかわいさを感じる人がいる。
作り手の出発点と、受け取る側の魅力の見つけ方は必ずしも同じではない。その違いが会話の中ではっきりと見えた。

相手のイメージにどう応えるか
dkr氏も製品や発信から感じていた印象を伝えた。
dkr:色んな人に刺さるものをというより、個人が可愛いと思ったものが出来上がってるっていうイメージが僕は強くて。
男性向け、女性向けという区分や売り方の意図を強く感じるというより、一人の人がよいと思ったものが並んでいる。その背景を尋ねるとあやめ氏は演劇の経験を挙げた。
あやめ氏:間違いなく演劇が原因です。
演劇の道具作りでは「刀が欲しい」というだけで注文が完結しない。どのような世界観でどんな雰囲気の刀が必要なのか。
相手のイメージに沿うことが求められる。
dkr:演劇の武器って、ファンタジーとかの場合は存在しないものを求められるってことですよね?
あやめ氏:作って持って行ったらイメージと違うって却下食らうんですよ。「何時間かかって作ってると思うんですか!」っていうふうなところも絶対に通用しない座長だったので。
時間をかけたことだけでは求められたものへの答えにはならない。
そうした環境で長く作り続けるうち、自分の工夫をどこに入れるかも変わっていった。
あやめ氏:相手の出してきたデザインに対してそのデザインの内容をどれだけ工夫できるのかっていうところなんです。中身の話になるじゃないですか。
見せたい形は相手にある。その形を実現するため構造や素材、作り方を考える。この姿勢が現在の注文にもつながっている。
dkr:自分の中のものを出すというより、逆に来たものを綺麗に打ち返すことを美学とする、といったイメージですかね?
あやめ氏:そっちの方が強いです、やっぱり。
同じ形でも振ると違う
その工夫が具体的に表れるのが鞭の調整だ。
見た目が同じでも内部の構造や材料を変えると、使った感覚は変わる。あやめ氏は久しぶりに会った使い手が製品の変化に気づいた経験を話した。
dkr:見た目一緒なのに「変わったね」となるのは素材とか製法の話ですか?
あやめ氏:中の構造ですね。見た感じもテーパーのかかり方も長さも全部一緒に見えるのに振ったら違う。
外形だけを見比べてもわからない差がある。
あやめ氏の説明では、内部構造を調整できるものもあり重さや感触について使い手の要望を反映していくという。
あやめ氏:お客さんに合わせて手元に何グラムぐらい重さ出してほしいなっていうのも、部分的に調整できるものもやっぱりあったりする。
要望が言葉になればそれに対してできることを考えられる。
ところが、そうして一本ずつ応えていくとあやめ氏自身には別の難しさも生まれる。
あやめ氏:どれがうちの正解なのか全くわかんなくなるんです。「じゃあおたくの色は何?」って言われるとすいません、ないです。でも、言われたものに応えるようにはしています。
一本ごとに答えが違う。だから自分の工房を代表する特徴を問われると説明しづらいというのだ。
しかし、dkr氏はその自己評価に別の見方を返した。
dkr:自分の作品性を押し付けるんじゃなくて、相手のニーズにどんどんフィットさせていけるっていうことなので。それが出来ることや楽しみを見出しているのは「色がない」とはまた違うものだと思いますけどね。

「カラーがない」を二人はどう見る?
あやめ氏は周囲から「何を目的としてものを作っているのかわからない」と言われたこともあるという。
作り手の好みや得意とする体験が製品に強く表れていれば、手にした人にも伝わりやすい。
あやめ氏の場合は注文した相手の意向に合わせるため、その軸が一つには定まらない。
dkr:それ、逆に僕はすごい刺激的だと思うんですけどね。こっちの創造性が試されるというか。ありものの「こう使うのね」なんてコンビニエンスなものは無視して「これは責具です」と渡されてこちらが試されてる感じとか「やってやろうじゃねえか!」ってなります。笑
使い方や目指すものが最初から見えすぎていない面白さもある。dkr氏は、使う側が考える余地として受け止めた。
一方、泉氏はもっと身近な例を挙げる。
泉:無印良品みたいな方だなって思いました。お客様の声、無印もめっちゃ聞くじゃないですか。
泉氏が重ねたのは利用する人の声を聞き、必要なものに合わせて工夫していくイメージだった。
dkr:もうお店の特徴は「寄り添い」とかじゃないですか?笑
「カラーがない」という本人の言葉に対し二人は、相手に応えること自体に特徴を見いだす。
ただ、あやめ氏はそこで簡単に納得して終わるわけではない。自分の仕事を一言で説明する難しさはなお残っている。
そのやり取りを聞いていると作り手が自分で語る個性と、使う人が受け取る個性は違っていてもよいのではないかと思えてくる。

使う側と受ける側で「ワンセット」
ここで、あやめ氏が会話の視点を広げた。
あやめ氏:今、プレイヤーさんを中心とした会話なんですよ。でも、実は受け手さんのニーズも入れてたりするんですね。
それまでは主に道具を操作する側の使いやすさを話していた。
しかし、その道具を身につけたり受けたりする側にも変えてほしい部分がある。
使う側にとっては気にならなくても、受け手には負担になるところがある。
その声を製品に反映させると使う側ができることを一つ減らす場合もあるという。
あやめ氏:でもここ二人でワンセットだから、こっちとこっちのやつが入れられるんだったらいいんじゃないのと思っちゃうんですけれども。
どちらか一方の要望だけで決めるのではなく、受け手がこう言っているけれどどうだろうかと確認する。使う側もそれでよければ、できる範囲で加工する。
ここまで聞くとdkr氏の言った「寄り添い」が、具体的な仕事として見えてくる。
単に注文どおりの寸法にするだけではない。その道具に関わる人の希望を聞き、互いの要望が違うところを確かめ調整していく。
二人のための道具だから、二人の声を聞く。その考えがあやめ氏の製作にはある。
泉氏が見つけた普段使いにも通じるかわいさ。
dkr氏が見いだした使う人の想像を受け止める余地。
そして、あやめ氏自身が語った受け手を含めて考える姿勢。
「うちにはカラーがない」という言葉から始まった話は一つの色では括れない仕事の中身を見せてくれた。
次回はその要望を理解するための「言葉」と、学び続ける姿勢について。あやめ氏が技術を知ること、教わること、そして自分の考えを説明することをどう捉えているのかを聞く。

革工房あやめは、革の拘束具や鞭、アクセサリーなどを手がける革工房。かわいらしさと道具としての確かな作りを両立し、日常にもなじむ作品を製作している。
革工房あやめ
公式X:@haruka0848
公式Bluesky:@ayamedou.bsky.social
※製作・販売等の最新情報は、公式Xでご確認ください。


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