福岡KINKYBOXオーナーママ・マリンさんに聞く｜SMとアートが交差する福岡の大人空間

SMについては、物心ついたときから興味がありました。当時はSMという言葉は知りませんでしたが、好きな子に意地悪をしたり、困り果てる顔を見るのが大好きだったんです。
子供の頃は無邪気に自分の思うまま行動していましたが、大人になるにつれて「これはやってはいけないことなのでは？」「私は変なのかな」と悩むようになりました。
「これはだめだ」「思ってはいけないことだ」と心に蓋をして生きていた時期もありました。

20歳のときに、アングラな文化を中心に掲載していたフリーペーパーでライターをしていました。ホームレスの方や、アングライベントで演奏するDJなどを取材していたんです。隔月刊で、2か月に1回の発行でした。
SM業界に初めて触れたのは、その取材のときです。KINKYBOXの前身となる店舗に取材で伺ったのですが、なかなか記事のOKが出ず、何度も足を運びました。2週間で5回ほど通った頃に、ようやく記事にOKをいただけたんです。

頻繁に通っていたので自然とお店の方とも仲良くなり、そのとき「ママが10日間お休みするので、スタッフとして働いてくれないか」と声をかけられました。びっくりしましたが、10日間だけならと引き受けました。

何も知らない状態で飛び込みましたが、ワクワクしながら楽しく働くことができました。
自分の性癖を心に蓋をして秘密にして生きてきたのに、それを話してもすべて肯定してもらえて。本当に嬉しかったですね。
SMはしっかりジャンル分けがあり、私と同じ性癖の人もたくさんいると知って安心しました。

10日間のつもりが、気づけば27年。
当時は本業で美容師をしていて、手荒れにも悩んでいました。なので、このお誘いはタイミング的にもとても良かったと思います。

SMは、私にとって紳士淑女の心の秘密と、その場にいる人々の瞬間の感情が共鳴して生まれる、唯一無二のライブアートです。
同じものは一つとしてありません。1対1の枠を超えて、その場にあるすべての環境、心のゆらぎに影響をうける。二度と同じものはないのです。
10人いれば100通りのアートが生まれる。そこがSMの面白さです。

実は一度、SMの世界を離れようと思い、6年間放浪していたことがあります。日本全国を旅して、いろいろな世界を見ました。
離れたはずなのに、その時も私を支えてくれたのはSMだったんです。

私がSMと出会ったお店がなくなると聞いたとき、「大事な場所がなくなったら困る人がたくさんいる。私もその一人だ」と思いました。そこでSM界に恩返しをしたいと決意し、今のKINKYBOXにつながっています。
SMとは、離れようと思っても離れられないものなのかもしれません。

「ビルとビルの隙間にあるゴージャスな隠れ家」をテーマにしています。
私はアートが好きなので、SMに関係なく大人のパーティなどでも遊びに来ていただけたら嬉しいです。

常にアートや作品、想いを生み出したいと考えています。
既成概念を打ち破りたい。今まで蓋をして隠してきた感情を爆発させたい。
時代や人は常に変わるし、思いがけないところでアートは勝手に生まれることもある。
私一人で作るのではなく、関わっていく全ての人が一体となり、紳士と淑女の秘密をアートとして昇華させたいです。

KINKYBOXは、私の芸術を生み出したい欲と心のエネルギーを同時に発散できる場所なんです。

一度、西日本新聞に取材していただいたこともあります。普通の新聞で女王様が大きく取り上げられるのは珍しく、SMの世界を真面目に紹介していただけて嬉しかったです。

SMは心の奥を読み合うので、普通の職場よりも洞察力の高いスタッフが多いのかもしれません。
私自身、自由を大事にしますが「良いこと・悪いことの線引き」は必ずブレずに伝えるようにしています。大切な軸はブレません。

KINKYBOXでは、SかMかわからなくても「ここで働きたい」という強い想いがあれば採用します。実際に「自分はSだと思っていたけど、働いてみたらMだった」というスタッフもいます。

「行ってみたい」と思った時点で、もう心は動いているんです。だからあともう一歩、ぜひ実際に来てみてください。
ここはどんな人でも受け入れる、否定されない場所です。
今まで怖いものや汚いものだと思っていた世界も、芸術的で美しい世界に見えるかもしれませんよ。

快楽は、生きていく上で必要不可欠なもの。
快楽=生きるだと思います。快楽のない人生は、生きているのか死んでいるのかわからない状態と同じかもしれません。
私は快楽を通じた表現者でありたい。私からのメッセージを受け取ってくれる人がいる限り、表現を続けます。人間の理をきちんと伝えていきたいと思っています。