
北九州・小倉の街で長く親しまれてきた老舗映画館「小倉名画座」。
昭和レトロな佇まいをそのまま残し、いまもバラ族向けの映画(ゲイ映画)やポルノ映画を上映することで知られる“ちょっとアングラな匂い”が魅力の場所です。そんな劇場が9月14日の夜だけはスクリーンではなく、舞台が主役に。
▲アングラな雰囲気満載の古き良き成人映画館。
イベントの名前は「不埒なイングリモングリ人間ショー」。キャッチコピーは「〜倫理崩壊エンタメ絵巻〜」。
出演はファイヤーヨーコさん、武津安奈さん、SIVAさん、戯正さん、蜂鳥あみ太=4号さん+アコーディオン田村賢太郎さん。もう名前を並べただけで、“普通じゃない夜”が始まる予感しかしません。
白と黒のサーカス ― SIVAさんの縄のショー

トップバッターはSIVAさん。SIVAさん受けては餅和さん。
真っ白なワンピース姿の餅和さんが観客に風船を配り歩く光景は、開演前のサーカス小屋に迷い込んだかのよう。かわいらしさと不思議さが入り混じるその時間を破ったのは、白黒の衣装にピエロ風メイクのSIVAさんでした。
▲サーカスへ迷い込んだ女の子のよう。
▲SIVA女王様の表情もかっこいい。
笑顔なのか不気味なのか判別できない“道化師”の出現に、会場の空気は一気に張りつめました。縄が絡みつき、白いワンピースがはだけ、吊られる身体。蝋燭が落ちるたびに観客が息をのむ。鞭の音が響けば肩をビクリと動かす。
▲餅和さんは顔出しNGなのですが、艶のあるほんとに素敵な表情でした。
線香が押し当てられた瞬間の絶叫は、空中ブランコが落ちる直前を見守るかのような緊張感。さらに腕にカゴ、手に蝋燭を持たされたアンバランスな姿は、見世物小屋のような狂気を帯びていました。
▲思わず観客も息を飲む圧巻のパフォーマンス。
最後は二人が手を取り合い、観客に礼をして幕を閉じます。怖さと美しさを混ぜ込んだ“暗黒サーカス”。張りつめた空気がふっと解け、観客の胸には不思議な余韻だけが残りました。
▲最後はお二人共笑顔でご挨拶をされていました。
SIVA女王様公式X:@SIVA214
餅和さん公式X:@waiwajyt
女子学生が女王様に ― 武津安奈さん&戯正さんの学園コメディ

続いては一転して学園ドラマ仕立て。チャイムとともに登場したのは、女子学生カップルの戯正さんととわさん。初々しいキスやイチャイチャに、客席からは思わず笑みがこぼれます。
▲甘い青春を感じるデートシーン。
そこへ乱入するのは堂々たる女王様・安奈さんとM男性。
スーツケースから飛び出す小道具を前に、戯正さんととわさんは驚きながらも興味津々。
SM初心者向けの本を片手に、まずは見よう見まねで手錠をかけたり、ブラシでくすぐったり、物差しでペチンと叩いたり。割り箸を割る小ネタまで飛び出し、観客は笑いと期待で盛り上がっていきました。
▲SM入門の本の登場時には観客大爆笑。
やがて縄に挑戦する戯正さんを、安奈さんが「こうやるのよ」と指導。動画を撮って応援したり、隣でとわさんが受け手として支える姿も相まって、学園コメディはにぎやかに進んでいきます。戯正さんは女子学生のまま少しずつSMの世界に馴染み、女王様としての一面をのぞかせていく…。
▲縄が上手くなっていく演技もとても上手です。
そしてクライマックス。戯正さんはボンテージ姿に変身し、戯正さんも女子学生から“もう一人の女王様”へ。
二人が鞭を振るい、とわさんを責め立てる場面は迫力満点。コメディ仕立てなのに本格的なSMの空気も漂い、観客は笑いながらもゾクゾクするカタルシスを味わいました。
▲安奈さんは先輩女王様として、しっかり楽しく指導していました。
▲ボンテージ姿の戯正さんも、素敵。
武津安奈さん公式X:@taketsu365happy
戯正さん公式X:@gishow_drd
とわさん公式X:@towa_dorado
歌と観客が溶け合う ― 蜂鳥あみ太=4号さん&田村賢太郎さん

三番手は音楽ステージ。「全身網タイツの地獄シャンソン歌手」と自ら名乗る蜂鳥あみ太=4号さんが登場すると、場内は一気にざわめきます。その異彩を放つ姿に観客の目は釘付け。映画館はあっという間にライブハウスの熱気へと変わっていきました。
開演前には「アミタッチ」なる新システムも登場。スマホをかざすだけでYouTubeチャンネルに飛べる仕掛けで、多くの観客がその場でフォロー。最新技術を取り入れる柔軟さも、蜂鳥あみ太さんの“面白すぎる武器”でした。
▲アミタッチは画期的。ステージ前のあみ太さんのお洋服もおしゃれ。
SNSのシャドウバンの話を笑いに変えつつ、「2024年は200本、2025年も180本決まってる」とさらりと語るあみ太さん。
さらに「愛しすぎて人を殺したくなったとき、その衝動を歌で昇華する」という衝撃的すぎるMCで、笑いとどよめきが同時に湧き起こりました。エジプトのリズムを取り入れた曲も披露され、空気はますますヒートアップ。
▲圧巻の声量でびっくり。賢太郎さんの激しい演奏も場内を盛り上げます。
二人は一緒にオーストラリアへツアーに出かけ、「バスキング(路上パフォーマンスをしてチップを稼ぐ)」に挑戦。2,000ドルを稼いだ話や、子どもたちとの摩訶不思議な交流エピソードに観客は耳を傾けます。独特すぎるスタイルに街の人々が驚きつつも、足を止めて楽しんだ情景が浮かびます。
▲きっとオーストラリアの方もお二人のパフォーマンスにびっくりしたに違いありません。
やがてコール&レスポンスで会場がひとつになり、さらにあみ太さんが客席へ飛び込み“濃厚接触パフォーマンス”へ。汗を飛ばしながら至近距離で歌声を届ける姿に、驚きと笑いが入り混じり、場内は一気に騒然。
▲チップタイムも大盛り上がり。
舞台と客席の境界は完全に消え、観客全員が同じ時間を遊び尽くすような一体感に包まれました。歌い終えたあとも、その余韻は長く残っていました。
蜂鳥あみ太=4号さん公式X:@amita004
田村健太郎さん公式X:@tamunyan0222
炎と未来 ― ファイヤーヨーコさん

ラストを飾るのはファイヤーヨーコさん。冒頭から鉛筆をパキッ、スプーンをグニャリ。次々と繰り出す技に客席は爆笑で、会場を一気に掌握します。鉛筆にまつわる幸運なお話に、観客はわくわく。
ヨーコさんのステージはSNS発信、撮影禁止。
だからこそ「これは生で体感するしかない!」と観客は目を離せません。考えるよりも早く笑いと驚きに巻き込まれる、圧倒的なパフォーマンスです。
そして名前通り“火吹き”の瞬間。暗い劇場に炎が広がったとき、場内からはどよめきと歓声が巻き起こり、熱気は最高潮に。
残念なことに、2025年12月で引退を発表されています。心を打ったのはラストに語られたファイヤーヨーコさんの引退後の展望について。
引退後には小倉に拠点を構え、視覚障害者が働ける施術所を立ち上げたいと未来の夢を語りました。さらに「今後はショーではなく、新しい仕事を通して47都道府県を巡っていきたい」という真剣な思いに、会場は今までのショーとのギャップに驚き、炎以上の熱を胸に刻み込みました。
みんなでヨーコさんの将来の話に聞き入ったあとは、テーマソングが流れ、会場は今日一番の盛り上がりに。笑顔と拍手に包まれたフィナーレは、炎の余韻を超える熱狂そのものでした。
観たい人は今のうちにショーへ足を運んで、ファイヤーヨーコさんという存在の歴史をしっかり目に焼き付けてください。
ファイヤーヨーコさん公式X:@fireyoko
まとめ 〜名画座だからこそ生まれる夜〜
▲開園前の静かな時間。
「不埒なイングリモングリ人間ショー」は、不埒で放送不可能…でも最高に濃厚で忘れられない夜でした。SIVAさんの暗黒サーカス、安奈さんと戯正さんの学園コメディ、蜂鳥あみ太さんと田村賢太郎さんの爆走音楽、そしてファイヤーヨーコさんの炎と未来。ごった煮感こそがクセになるエンタメの真髄です。
普段はバラ族向け映画やポルノ映画を上映し、昭和の香りを漂わせる小倉名画座。その座席で映画ではなく“生の人間ショー”を観る体験は唯一無二でした。映画館という器だからこそ、笑いも悲鳴も熱気も、すべてが同じ空間で共有できる。
小倉名画座は、ただの映画館ではなくカルチャーの交差点。この場所でしか生まれないポップでディープな夜を、これからも見せてくれるはずです。
小倉名画座
住所:〒802-0002 福岡県北九州市小倉北区京町2丁目5−6
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